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相手の心情を知る。孫正義育英財団の財団生が見つけた、コミュニケーションのコツ

孫正義さんの活動のひとつ「公益財団法人 孫正義育英財団」をご存知でしょうか? 自らの才能を開花させて志を実現するために、研究や事業を行っている若手に対し、仲間と交流できる施設や機会、夢の実現のための資金援助を行っている団体です。

参考:孫正義育英財団 公式HP https://masason-foundation.org/


財団生として認定されるのは、国際大会や全国大会規模のコンテストで優秀な成績を収めた人や、国際的に通用する実績や資格を持っている人たち。財団には、優秀なメンバーが集まっています。


今回ホースコーチングに参加してくれたのは、そんな孫正義育英財団2期生の大塚嶺(おおつか れい)さんと、6期生の森谷 安寿(もりや あんじゅ)さん。2022年12月に沖縄で開催されたカンファレンスイベント「LEAP DAY」に参加する前に、馬場を訪れてくれました。


今回のインタビューでは、ふたりがホースコーチングを通して発見した「コミュニケーションのコツ」について伺います。



大塚 嶺(おおつか れい)渋谷教育学園渋谷高等学校 2年(2022年度現在)

“医療では解決できないことを、テクノロジーで解決する” をテーマに、UI / UX デザイン、WEBサービス・iOS / Android アプリケーションの開発を行う。小学6年生からプログラミングを始め、2017年に未踏ジュニアで新聞記事などを読みやすくするアプリを開発し、最年少スーパークリエーターに選ばれたのち、孫正義育英財団に2期生として入る。その後もShibuya QWSなどにも所属しながらARを活用したサービス開発などを行なってきた。高校からはイギリスでコンピューターサイエンスを学び、帰国した年には、AI英会話アプリ「AIbou」を開発し、アプリ甲子園において優勝・総務大臣賞を受賞した。

 


森谷 安寿(もりや あんじゅ)筑波大学情報メディア創成学類1年 (2022年度現在)

エモーショナルなVR世界を構築する大学生。新しい森羅万象となる時空をオリジナルの解釈で拡張し、身体機能の維持や向上、健康寿命を延ばすことを目指す。これまでの在籍歴・受賞歴は下記の通り。

・2020年度未踏jrスーパークリエイター

・2021年""Flight Fit VR"" Meta App 公式リリース

・第24回文化庁メディア芸術祭U-18賞受賞

・TOKYO GAME SHOW 2021 センスオブワンダー出展

・令和3年度文化庁クリエイター育成事業 採択

・WIRED CREATIVE HACK AWARD 2021 特別賞

・2021年アジアデジタルアート大賞入賞

・2022年文化庁メディア芸術祭高知展ニュ-ツナガル出展

・令和3年度メディア芸術クリエイター育成支援事業成果プレゼンテーション「ENCOUNTER 」にて新作”DRIFT ABYSS”発表



 

健康領域への興味は、家族の存在がきっかけだった


――はじめに、おふたりから自己紹介をお願いします。


森谷:森谷安寿です。筑波大学の情報メディア創成学類の1年生です。VR作品の開発、メタバース空間でのワールドづくり、アバターづくりを中心に活動しています。2022年の9月には東京でVR作品の体験型の初個展を開催しました。最近はcluster(クラスター)というメタバースプラットフォームでのワールドづくりに熱中しています。


大塚:大塚嶺、渋谷教育学園渋谷高校の2年生です。僕は今プログラミングをやっていて、主にWebアプリケーションの開発、iOSモバイル端末のアプリケーション開発を行っています。最近は、AIを使用した英会話アプリを開発中です。医療とテクノロジーを掛け合わせた「メディカルテクノロジー」の領域を進めていきたく、今は自分の技術力を高めているところです。


――お二人とも「健康」や「医療」の領域に興味を持って研究・事業を進められていますよね。その領域に進まれたきっかけはなんだったのでしょうか。


森谷:わたしは小さいころ新体操をやってきて、かなりハードに運動をしてきました。新体操のチームにも所属していたのですが、その練習がかなり過酷でした。しかし身体を継続的に鍛えて筋力をつけることで、自由自在に身体を操れるようになっていきます。鍛えれば鍛えるほど、ジャンプや回転ができるようになっていく楽しさがありました。


対照的に、わたしの弟はプログラミングが大好きということもあり、自発的には身体を動かさないタイプでした。そんな弟の姿を見て「首から上ばかり使うのはバランスが悪く、身体と脳の両方があっての人間なのだから、どちらもしっかり使わなければいけないのではないか」と思うようになりました。


その後世の中はコロナ禍に突入し、多くの人が身体を動かす機会を失ってしまいました。ビジネスの場でもリモート化が進み、座る時間が長くなってきています。弟や友人、世の中全体の様子を見ていて、不安になったことがこの領域に興味を持ったきっかけのひとつです。


高校生のときから「心身の健康を考えるVR作品」の制作を行っていて、仮想空間でも身体を動かせる、というコンセプトは今の作品にも反映されています。


大塚:僕が医療の分野に関心を持ったのは、小学生のときでした。もともとプログラミングが好きでのめりこんでいたのですが、次第に「使われるものを作らなければ意味がない」と思うようになっていきました。「使われるもの」の領域として医療を選んだのは、曽祖父の課題を解決したいと思ったことがきっかけです。


その頃の曽祖父は視力が低下していて、新聞などの文字が読めなくなっていました。高齢だったので手術もできず、虫眼鏡を使って新聞の見出しだけを読む生活を送っていました。この課題を目の当たりにして開発したのが文字を読みやすくする『らくらく読み読み』でした。


そんな原体験があり、「医療では実現できないことをテクノロジーで解決したい」という思いを胸に、さまざまなアプリケーションの開発を進めています。

 

 

大切なのは「どうコントロールするか」ではなく「どう自分と向き合うか」


――お二人がホースコーチングに参加したのは、LEAP DAYの前だったと聞いています。


谷:はい。2022年の12月に行われたLEAP DAY(那覇市で行われるカンファレンスイベント)に二人で登壇する予定があり、その前に百名にある馬場に伺いました。登壇の前に時間があったので、何か特別な体験をしようという話になって、いくつか挙がった候補の中にホースコーチングがあったんです。もともと大型の動物が好きで、小さいころに馬に乗ったこともあったので「ぜひ体験してみたい!」と思いました。


大塚:僕も「やってみたい」という単純な興味がありました。身体を動かすのも好きだし、動物も好きだったので、ぜひ行きたいと言いました。


――当日のプログラムはどのような順序で進んでいったのでしょうか。


森谷:最初に馬たちと少し触れあった後、引馬と追い馬をやりました。私たちを含めて3人で参加していて、引馬では一人一頭を引き、追い馬では一人ずつ馬場に入り3頭を追うという進め方をしていきました。でも、それぞれに苦労があったよね(笑)。


大塚:僕が担当した「リュウマ」が、その日はずっと落ち着きがなかったんです。馬場とは別の場所にポニーとサラブレッドがいる場所があるのですが、リュウマはずっとそこが気になってしまっていたみたいで…。最初は全然コントロールできなくて、試行錯誤を重ねながらの引馬になりました。


たぶん、馬も別に走りたいわけではないと思います。。引かれていても「なんで僕はこの人に引っ張られているんだろう」と思っている気がします。だからこそ、馬に対して自分がどういう気持ちで向き合うかがとても大切で、馬が一緒に歩いてくれたら、「あぁ、やっと歩いてくれた」と当たり前のようにとらえるのではなく、僕自身が誰よりも喜ぶことが大切だと感じました。ありがとう、と感謝しながら互いの仲を深めていくことの大切さを感じでした。


森谷:最終的には、リュウマのこともちゃんと手なずけていたよね。


――森谷さんはスムーズに進んだのですか?


森谷:わたしは追い馬で苦労しました。3頭を後ろから追いかけて、同じ方向にぐるぐる走らせなければならないのですが、ちょっと油断すると逆走してしまいます。馬場の足元は砂なので足をとられやすく、風も強かったので、途中で疲れてしまって。でも「あぁ、もう一回やらないと」と思うと、それが馬にも伝わって余計に乱れてしまうんです。


そうしたら途中でトレーナーの方に「気合が足りない!」と言われました。「心が逃げてる!それは真の君じゃないよ!エネルギーを全部出して!」と。思い出すと、ちょっと部活っぽかったな(笑)。


でも、その言葉があったからより集中して、強い心で向き合えたような気がします。最終的には追い馬も成功して、10秒ほどですが3頭を同じ方向に走らせることが出来ました。

 

 

ホースコーチングを通して得た気づき


――ホースコーチングを通して、どのような気づきがありましたか?


大塚:3時間を一緒に過ごしてみて、馬はとても敏感な生き物なんだなと感じました。自分がどのような姿勢で馬と触れ合うのか、何を考えるかによって馬の態度も変わるんです。「馬をどうにかしたい」「こうさせたい」と思っているうちは全然いうことを聞いてもらえない。でも、馬に感謝をしたり、こちらからポジティブな感情を伝えたりして、馬と向き合ったうえで「こうしてほしい」と伝えることで、一緒に歩き出してくれるような感覚がありました。


谷:感情が伝わりやすい生き物だというのはわたしも感じました。人間同士でもそうだと思いますが、不安や苛立った態度は他の人にも伝染しやすいですよね。馬には人間以上にそれが伝わるようで、追い馬をしているときに少しでも諦めの気持ちを持ってしまうと、それが敏感に反映されるように感じました。


わたしたちは言葉を持った人間なので、普段は言葉に頼りすぎてしまっているように思えます。だからこそ、相手の感情を無視していても会話が成り立ってしまうこともよくあるのではないでしょうか。たとえばすごく疲れているのに「元気だよ!」と伝えてしまう、ようなことがあります。


でも馬には言葉がないからこそ、相手が何を考えているのかに思考を巡らせる必要がありますし、自分の感情も態度や行動として伝える必要があります。それがすごく新しい体験だったなと、純粋な「コミュニケーション」ができている感じがしましたね。


――ホースコーチングを体験する前と後で、ご自身の中に変化はありましたか?


大塚:理解していることと、納得して実行できることは違うなと痛感しました。たとえばコミュニケーションの方法って、いろんなビジネス本にセオリーが書かれて、うまくいくロジックみたいなものも存在していると思うんです。でも、本を読んでロジックを知っていても、それを知っているだけではあまり変わっていかないことも多いと思います。


今回のホースコーチングで僕は、自分の心情が乱れていると馬がいうことを聞いてくれないとか、うまくコミュニケーションが取れないということを身をもって体験しました。馬からわかりやすい形でフィードバックが返ってくるから、納得感があるし、次のアクションに納得して進めました。自分が知識として知っていることを改めて理解し、納得して実践するということができる場になったと思います。


その他には、プログラミングとホースコーチングには交わるところがないのではないかと思っていたんですが、体験してみて「似ているところが多い」と考えが変わりました。


一番似ていると思ったのは、トライアンドエラーが必要であるというところです。プログラミングでは、やってみてだめだったら違うコードでやり直す、という行為が日常的にあります。ひとつの機能を作るために、何百回もコードを走らせることもあるくらいです。しかも、追加するのが ( ) だけのことも多々あります。


ホースコーチングでも馬が思うように動いてくれなかったら「こうやって伝えたらいいのかな?」と小さくたくさん試してみる。いろんな形のコミュニケーションを試す、という意味で、実はすごく近いものなのではないかと思いました。




――森谷さんはいかがですか?


森谷:実はわたしは人が思っていることをあまり察知できないんです。正直「言ってくれなきゃわからん」と思ってしまうこともありました。でも今回馬とのコミュニケーションを経験して、相手の言葉以外にも、表情や心情を読み取るべきだとすごく思いましたね。


人間社会でのコミュニケーションも、馬とのコミュニケーションに通ずるところがたくさんあります。たとえば馬って身体は大きいし、蹄も力強いから、近づいてきたら「うわ!」と驚いてしまいます。でも、同じように自分より強そうなものと息を合わせたり、対面で実際にコミュニケーションを取る機会って、よく考えたら人間社会でも普通にあることですよね。


ホースコーチングをする前と後で、「自分より強そうな生き物」と良い関係を築いていくことへのイメージが変わったと思いますね。ただ恐れるのではなく、良い関係を築けるように努力してみることで、人生にも良い影響がありそうだなと思えるようになりました。


――最後に、どんな人にホースコーチングをおすすめしたいか教えてください。


大塚:僕は、自分ではコミュニケーションが上手いと思っている人にこそホースコーチングをすすめたいです。一見うまく会話が進んでいるように見えて、実際はあまり会話になっていないことって、たくさんあると思っています。


コミュニケーションに苦手意識を持っている人の方が、実は相手のことを観察して、言葉の裏に隠れている心情を読み取るのは上手かったりもします。逆に言えば、表面上はスムーズに会話が進行していても、言葉が上手いからこそ気づけていない相手の気持ちもあるはずです。


だから、コミュニケーションが上手いと感じている人ほど、ホースコーチングを通して新しい気づきがあるのではないかと思っています。


谷:わたしは、言葉にできない悩みやモヤモヤを抱えている人におすすめしたいです。悩みというのは頭の中で考えるにしても、人に話すにしても、言葉にすることが必要だと思います。しかし、言葉で考えすぎることによって自分の感情が置いてけぼりになってしまったり、悩みに対して分析的になってしまったりすることもあるような気がします。


ホースコーチングは、馬という言葉を持たない動物と触れ合うからこそ、言葉に変換されない「生の感情」みたいなものに気付ける機会になると思います。自分の生き方と他の動物の生き方を比べる機会にもなると思うので、何かしらの悩みを抱えている人にはぜひ体験してみてほしいです。

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