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思考の癖に気づき、これまでの自分を超えていくために。経営者・奥山純一さんが見つめたリーダーシップの形

「強引なリーダーシップや、他者へのご機嫌取りが、過去の自分を支えてきたものだったんですよね」。ホースコーチングを通しての気づきをそう語るのは、経営者の奥山純一さんです。2022年9月、会社売却直後に参加したホースコーチングは、これまでの自分の在り方を振り返る良い機会となったのだと言います。


今回のインタビューでは、奥山さんがホースコーチングを通して見つめたご自身の在り方と、その後の変容について聞きました。




奥山 純一(おくやま じゅんいち)

静岡大学教育学部卒業後、外資系人材サービス企業に入社。 2012年、ヴィスト株式会社を設立し、就労移行支援事業「ヴィストキャリア」を立ち上げる。

2014年には就労継続支援事業「ヴィストジョブズ」を、2017年には放課後等デイサービス「ヴィストカレッジ」を開始。2019年、障害者雇用等のコンサル事業を行う(株)ヴィストコンサルティングを設立。2020年、金沢市のフレンチレストラン「MEGU」を運営する(株)浅ノ川フーズを事業継承。福祉や行政などの枠組みを超えて「あらゆる人が心豊かに働ける社会」の実現にむけて日々活動中。好きな食べ物はだし巻きたまご。2022年、ヴィスト株式会社 代表取締役を退任し、会長に就任

 

 

「変容」に立ち会う喜びが自身のキャリアを創ってきた


――はじめに、奥山さんご自身のことを教えてください。


静岡大学の教育学部を卒業した後、人材サービスの会社に就職しました。就職して3年目の25歳のとき、自分のキャリアに悶々とした時期があり、何か新しいことをしたい!と思うようになったんですよね。「最初に心が触れたことをやってみよう」と決めて、出会ったのが発展途上国に学校を作ること。それからNPOを作り、仲間を集め、途上国に学校や医療を作る取り組みをスタートしました。


1年半後に学校ができあがり、ゼロイチで場を作ることの喜びと面白さを知りました。ですが100%ボランティアの活動だったので収入はないし、仲間にも報酬が支払えない。きちんとお金を稼がなければ身近な人を幸せにできないのでは、と思うようになり、ビジネスとしての社会課題解決を目指すようになりました。そして2012年9月に自身の会社を設立、就労支援や子ども向けの児童発達支援、コンサルティングなどの事業を行うようになり、2022年9月にバイアウト。現在は会長に就任しています。


――奥山さんは「働く」「人生を豊かにする」というところにさまざまな角度から切り込み、事業を立ち上げている印象を受けました。なぜ人と向き合う領域で事業を行っているのですか?


人の変容にすごく興味があるんです。人の変容には、多くの場合痛みが伴います。痛いことってどうしても避けて通りたくなってしまうと思うのですが、痛みがないと気づけないことも実は多い。いろんな出会い、体験を通して痛みに気づき、その気づきから自分を変化させて、初めてコアな自分に気づき戻っていく。そのプロセスにすごく感動するんですよ。


ビジネスの場で出会った人だけではなく、家族や友人、さらには自分の変容にも感動します。それが僕の“好物”だから、人と向き合う仕事を選んだのかもしれませんね。


――大学時代に教育を学びたいと思ったのも、変容への関心からでしょうか?


まさにそうですね。友だちとの喧嘩、学校生活の中で難しい課題が目の前にやってきてそこに向き合う、進路の選択……。そういういろんな葛藤があるのが学校という場だと思っていたので、それらを通して変容していく子どもたちのそばにいたい、変容に立ち会いたいと思っていました。

 

 

「馬場」は馬・自分・コーチの三者がともにある場所


――今回ホースコーチングに参加したきっかけを教えてください。


矢澤さんにメッセージで「こんなのあるけどどう?」とお声掛けいただいたことがきっかけです。メッセージをいただいたタイミングが、10年運営した会社を売却した1週間後で、まさに自分にとっての「変容期」。新しい場、新しい体験を本質的に欲しているタイミングだったんです。沖縄という場も非日常的な活動をするのにぴったりだなと思い、すぐに「やります!」と返事をしました。


――ホースコーチングはどのように進んでいきましたか?


馬場に入る前に、馬が繊細でありながらエネルギーの高い存在であることを聞き、「この瞬間をどういう時間にするのか」を自分で考える時間があるんですね。だから「こんな時間にするぞ」というマインドが自分の中に立ち上がっている状態で馬場に入ります。


そのあとで、3頭の宮古馬とスキンシップを取り、誰との時間を過ごすかを自分で決めます。不思議と瞬間的に「この子だ」とわかって、僕はミハルという子と一緒の時間を過ごすことにしました。


――その後ミハルとはどんな時間を過ごしたのでしょうか。


1~2時間ほど、「引馬」と呼ばれる、一緒に歩いたりスキップしたりするプログラムに取り組みました。でも、最初はまったくミハルが動いてくれなくて。それなのに、ふと隣に目を向けると、わずか10分で馬と仲良くなって一緒にスキップしている人がいる。それを見て、僕の中にはいろんな気持ちが湧くわけです。


選ぶ馬を間違えたかな。あの人に比べて僕は何が劣っているんだろう……。この時点で意識が外に向いていて、ミハルに向いていないんですよね。すると馬との関係性が途切れて、心理的な距離はさらに遠くなっていく。手綱を短く持っていて物理的な距離は近いはずなのに、本当の意味ではつながれていなかったんです。


――そのことにはご自身で気づけたのですか?


いえ、実はそれも言われないと気づけなかったんです。


僕の場合は、パートナーの馬は自分で決めましたが、スキンシップを取っている間もコーチがそばについていてくれて、都度フィードバックをくれました。馬の言葉を僕に伝わるような表現で伝えてくれたり、逆に僕の意思を馬に伝えてくれたりもする。つまり、「介在する媒体」として存在してくれているんですね。


上手くいかない僕の様子を見たときも「意識が30分で途切れていますよ」「つながれていないですよ」とフィードバックをもらって、言われるごとに「つながるとはこういうことか」と少しずつ分かっていきました。


正直なところ、僕は馬と自分とのふたりきりだったら、その瞬間に何が起きているのかをほとんど理解できなかったように思います。馬・自分・コーチの三者がともにある、そんな時間を過ごせたからこそ、得られるものも多かったように思います。

 

 

自分のリーダーシップの形に気づいた


――印象的だった出来事はありますか?


僕の中で「引馬」のゴールは「馬と一緒に歩くこと」でした。だから、一緒に歩くことを達成するために、ついミハルを強く引っ張ってしまっていました。こっちへ来て!と思ってコントロールしようとするから、手綱がどんどん短く、ピンと張った状態になる。そうなると動ける範囲が少なくなるし、ミハルの自由は利かなくなってしまいます。そのときに「コントロールしたい」という自分の意思を感じてハッとしました。「強引に引っ張る」というリーダーシップのあり方がそこに表れていたんです。


それに気づいて次に僕がしたのは「ご機嫌取り」。強引に引いても動いてくれないので、首の下をなでたり、優しく声をかけたりして、次の瞬間にまた引っ張るんです。「さあ、機嫌が良くなったんだからもう行けるでしょ」と言わんばかりに。


強引なリーダーシップと、ご機嫌取り。自分はそれを巧妙に入れ替えながら相手をコントロールしているのだということが、引馬で得たもっとも大きな気づきでした。


――なるほど。普段の自分の在り方、リーダーシップの形が、引馬のときにあらわになったということですね。


コントロールできていない状態って、すごく不安になるんですよね。特に今回の引馬では、言葉も通じないから、相手が何を考えているのか何ひとつわからない。その不安をなくして、自分の心地よい状態を作るために、他者をだましてでもコントロールしようとしてきたんだ、という気がしましたね。


――その後ミハルと一緒に歩くのは成功したのですか?


はい。まずは「向こうにいきたい」という自分の意思を、自分の中でハッキリさせる。進むときに自分の横にミハルの存在を感じる。それが合わさったとき初めて一緒に前に進めました。それまでは、ミハルが行きたい方向があるのをコントロールしようとしたので、一緒に迷った止まったり。でも、僕の意思をはっきりと強く持ち、意識を外に飛ばさずにミハルに集中させたときに、すっと前に進めるようになりました。


――一点に意識を集中する、持続させる、という行為は日常生活ではあまり経験しない難しいことのようにも思います。


本当にそうですよね。ただ、気が散っている、気が散りやすい状況にあるという事実を自分が認識するだけでもかなり違うように思います。気が散っていることに対して「だからダメなんだよ」と否定的になっても意味がないので、気が散っている状況を理解しながら「今気が散ってるよね」と、ただ思う。それだけで意識をスイッチできる気がします。

 

 

ホースコーチングは「馬の自分を借りてコアな自分に戻る体験」


――ホースコーチングを体験し、日常に戻ってから変化を感じたことはありますか?


ここまでお話していた通り、僕のリーダーシップの癖は「強引さ」にありました。一方でその癖が無かったら、人生や経営をやってこられていなかった。つまり、強引なリーダーシップやご機嫌取りが、過去の僕を支えてきてくれたというのも事実なんです。


それを卒業するというのは簡単ではありませんし、怖さもある。最初に「変容には痛みが伴う」と話しましたが、まさにその状態です。子どもや妻との会話の中でも、従業員との関係の中でも、どうしても自分が思う方向にコントロールしたくなってしまう瞬間があります。


そんなとき、ホースコーチングで体験した「自分を客観的に眺める」「つながるときの呼吸」みたいなものに意識を向けられるようになりました。「今自分の癖が出ているよ」と少し意識を向けたり、自分の中に自然のエネルギーが循環していくような呼吸をしたり……。すぐに過去の自分を卒業するのは難しいですが、時間をかけて、これまでの自分を超えていけたらいいなと思いますね。


――ホースコーチングを、奥山さんのような経営者やリーダーが経験することの良さはどこにあると感じますか?


馬との時間はごまかせない。これに尽きると思います。


日常ってごまかせてしまうんですよね。たとえば僕は、教育や営業を長く経験し、スキルを磨いてきたから、コミュニケーションは得意な方です。でも、その奥にある本当の自分とつながる、他者とつながることはできていなかった。それが引馬の時間で露呈しました。


ホースコーチングには、馬の力を借りて自分に返ってくるというプロセスがあるように思います。だから僕も、ミハルとの2時間を通して、本来のコアな自分に帰り、向き合えました。


経営者やリーダーは、メンバーの前で不安な様子を見せちゃいけない、と思うことも多いはずです。だからこそしっかりと事業計画を引き、着実にクリアすることで不安を解消しているのではないでしょうか。でも、計画を達成するまでのプロセスをどう楽しむか、そのプロセスの中で自分自身がどう在るかの方が実は大切なのかもしれません。ホースコーチングは、そういうことを考えるきっかけになる気がしています。


――どのような人にホースコーチングをおすすめしたいですか?


より自分を深く知りたい人、ヒエラルキーの中でバリバリ働いている経営層、リーダー層には特におすすめしたいです。一見「コーチング」のような世界から遠いところにいる人ほど、感動は大きくなるように思います。体験を得に、ぜひ沖縄に行ってみてください。



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